Microsoft Office for Ubuntuの衝撃

先日、こんなニュースが流れていました。

これらの記事に書かれているのは、Microsoftが2014年頃をめどに、Linuxの1ディストリビューションであるUbuntuに対して、Microsoft Office(のネイティブ版)を提供する可能性がある、というものです。

数年前であれば、LinuxをベースとしたOSに対してMicrosoftがソフトウェア、それも自社のソフトウェアの中核であるMS Officeを提供するなどということは全く考えられませんでした。私がもしそんなことを言ったとしたら、「熱でもあるんじゃないか?」と軽くあしらわれたことでしょう。

しかし、この数年で、OSを取り巻く状況は随分変わってきています。
まず、Microsoftは、Linux、あるいはオープンソースに関して、かつてのような敵対的姿勢を転換させています。オープンソースに対して最近ではMicrosoftが有力なコントリビュータであることは、オープンソースに携わっている方ならよくご存知の事実です。
基本的に、オープン標準、オープンシステム上で自社ビジネスを展開していくことがMicroosoftの方針となっているようで、現に、ウェブでは業界標準のHTML5を基盤としていくことを標榜しています。
オフィスソフトの分野でも、OOXMLという文書規格(これ自体はいろいろと問題はありますが)をオープン規格にして、従来の囲い込みの姿勢を脱出しようとしてきているようにみえます。

次に、記事でも指摘されていますが、デスクトップLinuxのシェアが次第に伸びているということが挙げられます。もちろん、Windowsのシェアの90%以上、などというのには遠く及びませんが、現時点では各種調査により、大体1%強のシェアはあるみたいです(まぁ、ディストリビューションごとでいうとまたいろいろあると思いますが)。
さらに、このデスクトップLinuxを採用しているところが、公共団体や自治体など、オフィス分野に特化しているという点も注目です。オフィスソフトを買うかどうかわからない個人客ではなく、確実な購入がみこめる(かも知れない)業務分野でLinuxデスクトップが浸透しつつあるということは、ここに確実な収入源があるとMicrosoftが考えたとしてもおかしくないでしょう。

さらに、ターゲットがUbuntuというところもポイントです。
Ubuntuはスケジュールがしっかりしたリリース方針や、自前のUbuntuソフトウェアセンターなどで、ユーザを確実につかむ(というか、囲い込む)作戦をとっています。また、バックにはCanonicalという会社もあってサポート体制も万全。
つまり、サポートできるOS(というかディストリビューション)を絞り込め、サポートをCanonicalと共同、あるいは委託して行うことができ、さらにはソフトウェア購入をUbuntuソフトウェアセンターから行えるようにできるという意味で、ソフト販売プラットホームとして他のLinuxディストリビューションから一歩抜きん出ているといえるでしょう。ちなみに来年(2014年)は長期サポート版のリリース年でもあり、この14.04 LTSがターゲットとなる可能性があります。

今回のMS Office for Ubuntuだけをみるとちょっと突飛なように感じるかも知れませんが、先ごろリリースされたLibreOffice 4.0でも、ユーザインタフェースではUnity(Ubuntuが採用しているデスクトップユーザインタフェース)との統合が図られています。
つまり、ソフトウェア流通、さらにはオフィスワークなどの分野で、Ubuntuが十分注目され始めているといえるのです。

私としてはこの傾向は大歓迎です。もちろん、私自身がUbuntuユーザだということもあるのですが、現在のWindowsの90%シェアというのは、実際のところセキュリティなどの面であまりにも危険ですし、MacOSなども含めて、より多様なOSの世界があってもよいと思います。
PCがいくらジリ貧とはいっても、タブレットやスマートフォンにすべてが置き換わるわけでは決してありません。むしろ、PC自体のプラットホームが活性化することで、新たな可能性が開けていくかも知れないのです。

また、ウェブサービスが普及すれば、プラットホームがどのようなOSであっても同じような形で仕事ができる(要はブラウザ1つで何でもできる)ということがある半面、依然として企業などではデスクトップアプリケーションへの要望が強いことは確かです。
そういった企業に対しても、MS Officeを装備したUbuntuというのは魅力的な選択肢として響くでしょう。

まだまだ噂という段階ではありますが、このニュース、注目する価値があるでしょう。