月震の種類

 アポロのデータの解析の結果、月震には次の4種類があるということがわかりました。
また、人工的に起こした月震もあります。
  • 深発月震 (Deep Moonquake)
  • 浅発月震 (Shallow Moonquake)
  • 隕石の衝突による月震 (Meteoroid Impact)
  • 熱月震 (Thermal Moonquake)
  • 人工月震 (Artificial Moonquake)
  • Moonquake example
    月震の例。左から、深発月震、浅発月震、隕石の衝突による月震。(Nakamura et al., 1982より)
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    月震全般の特徴

     本当は地球の地震の波形を上の図の脇に並べれば一目瞭然だったかも知れませんね。まず、最大の振幅になるまでに随分時間がかかることがわかります。
     地球の地震でしたら、最大の揺れがやってくるまでにせいぜい1分程度しかかかりません。しかし、月震は最初の揺れから最大の揺れに達するまで数分、ものによっては10〜20分もかかるものがあります。
     また、地球の地震は数分経てば収まりますが、月震は揺れがずっと長く続きます。特に隕石の衝突のような、比較的大きな地震は揺れが長く、中には5〜6時間も揺れが続いているものさえあります。
     では、月震というのはどのくらいの大きさなのでしょうか。もし、地球の地震のような大きさの地震が5〜6時間にもわたって襲ってきたら、それこそたまったものではありません。
     しかしそんなことはありません。月震はすべて、非常に小さいものです。
     マグニチュードという単位で比較すれば、深発月震はM1〜2程度、最大の月震(浅発月震)でM3〜4程度と見積もられています。M1〜2という規模は、地球では極微小地震として扱われて、人間が感じることはまずありません。M3〜4は小さな地震に相当しますので、震源の真上にいたら地震を感じることがあるかも知れませんが、それでも、建物を破壊したりすることはまずないでしょう。

    深発月震

     深発月震は、月震の中でもっとも多く発生するものです。「深発」というからには深いところで起こります。月の半径は1738kmですが、深発月震が起こる深さは800〜1150km程度と推定されていますので、相当深いところで起こるといってもよいでしょう(地球の深発地震は深さ500〜600kmくらいで起こりますが、地球は半径6738kmもあります。それと比べても、随分深いところで起きていることがおわかりかと思います。)
     深発月震には面白い特徴がいくつかあります。まず、震源が決まっていること。同じ震源で発生する深発月震はいくつかのグループに分けることができます。これらのグループは現在109グループ分類されていて、それぞれにA1、A2、…という名前がつけられています。

    図 深発月震グループA1の波形と合成波形(寺薗、1993より)
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    Stacked A1 Seismograms

    但し、特徴が似ているためにグループが統合されたものもありますので、現在では52のグループに分けられています。

     同じグループに属する地震は、波形が極めてよく似ているという特徴があります。例えば、右に示したのは、深発月震の中でもっとも活発な、A1と呼ばれているグループの月震ですが、このようにずらりと並べると、非常に波形がよく似ていることがおわかり頂けると思います。一番下に示したのは、上に並べた波形を足し合わせて作った合成波形です。
     深発月震は、ほとんどが表側で起こります。しかし、唯一の例外として、深発月震グループのA33と呼ばれるグループは、裏側で月震が起きていることがわかっています。このように、裏側でも進発月震が起こるのかどうかということはまだわかっていません。何しろ、アポロ計画では月の裏側に月震計を持っていきませんでしたから。

     もう1つ、深発月震の変わった特徴は、発生に周期があることです。その周期は、月と地球の位置関係に大きく関係しています。発生の時期や振幅の変化が、地球と月の位置によって周期的に変化することがわかっているのです。
     このことから、深発月震の原因は月と地球の相互作用=潮汐力が原因だろうと考えられています。ただ、月と地球の潮汐力は深発月震のエネルギーよりもはるかに大きいので、深発月震が潮汐力により直接起こされているというとは考えられません。少なくとも、「きっかけ」にはなっていると思われていますが、詳しいことはわかっていません。

    浅発月震

     浅発月震は、アポロの7年間の観測でもたった28例しか捉えられていない、極めて珍しい月震です。ですから、性質がよくわかっていないということもありますが、それをまとめると次のようになります。  浅発月震の発生原因としては、月内部の応力分布などが上げられていますが、何しろ28例しかありませんので、その性質すら明らかでないという点が問題です。
    一部の本では、HFT (High Frequency Teleseismic)と解説しているものがありますが、現在では「浅発月震」という呼び方が一般的です。

    隕石の衝突

     隕石がぶつかれば、その衝撃は地震波となって伝わります。これが月震として記録された例が、随分多く見つかっています。
     月震の規模としては比較的大きいのですが、それでも地球の地震と比べるとやはり小さくなってしまいます。ぶつかった隕石の大きさは500g〜50kg程度と見積もられています。
     もちろん、隕石の衝突はどんなところでも起こるはずですし、実際衝突点の分布は付き全体に広がっています。中には、裏側の遠いところで起きた隕石の衝突が記録された例もあります。また、隕石がぶつかった場所はかなり近接したまとまりになっていることから、流星雨との関係があるのではないかと思われています。

    熱月震

     数からいえば、実は月震の中ではもっとも多いものがこの熱月震です。しかし、これを月震というかどうかは、ちょっと疑問です。というのは、この「月震」は、岩石が割れるときの「衝撃」だからです。
     月には、14日間の長い昼と、14日間の長い夜があります。昼の間、月面の岩は徹底的に温められます。一方、夜の間は徹底的に冷えます。月面の昼間の温度は、太陽直下であれば100度を超えるといわれていますし、夜は逆にマイナス100度に達します。
     摂氏100度以上で熱せられ、膨張した岩が、夜になって冷やされる。逆に、マイナス100度で冷やされきった岩が昼間の太陽で熱せられて膨張する。こういったストレスがたまって、岩が割れると、当然その衝撃が発生します。熱月震は、これらの衝撃波が記録されたものです。
     当然のことながら、熱月震はこういった温度差が起こるとき、つまり、月の朝と夕方に発生します。非常に小さいため、観測点のごく近くで起きたもの以外は捉えられないと考えられています。
     それでも、1つの観測点で起きた熱月震は、いくつかのグループに(深発月震のように)分けられるという研究もあります。

    人工月震

     アポロ13号が月に行く途中で酸素タンクが爆発し、そのために月に到着できなかったということは、今では映画などで多くの人が知っているはずです。しかし、アポロ13号が唯一月に「行って」した仕事があります。
     これは、着陸船・司令船を推進させていたサターンロケットのブースターを月に落下させて、それによって月震を起こしたことなのです。この月震はアポロ12号着陸点に設置された月震計で記録されて、月の内部構造の解明に役立ったのです。
     この他にも、12号、14号、15号、17号では、使い終わった月着陸船を月にぶつけて、人工的な月震を発生させました。13号だけではなく、14号、15号、16号でもロケットのブースターを月に落下させて、月震を起こしました。
     ロケットなどを落下させて起こす月震はかなりの大きさになりますので、月震の解析に大いに役立つことになります。

     また、人工的な地震源(月震源)を持っていって、地震波探査を行ったこともあります。例えば、月面で爆発を起こして、それを近くの月震計で捉えて、表面付近の構造を決定したことがあります(アポロ14号、16号、17号)。
     このやり方は、地球で人工地震を起こして、地表付近の地下構造を決めるときとほとんど一緒です。このやり方によって、地表付近の構造を決めるときに非常に役に立ちました。


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