イケナイ宇宙学

書籍に載せられなかった注釈

2009年に、私を含め4名で翻訳を行った「イケナイ宇宙学」。私は第3部「人工無能」を担当しましたが、その際に本来の原稿には膨大な注釈が掲載されていました。
しかし最終的には、他の原稿とのバランスをとる意味もあり、その注釈は大半が削られることになりました。
今回、その削られた注釈を、発行者である楽工社さんのご許可をいただいて掲載するものです。なお、以下のページ数・行数は、本書のページ数と行数です。

序章
1. 214ページ12行目「カール・セーガン」
アメリカの天文学者、惑星科学者。1970年代の火星探査「バイキング計画」、外惑星探査「ボイジャー計画」をはじめとして、数多くの惑星探査計画に関わり、惑星表面の地質学、物理学についての研究で多大な功績を残す。また、科学を一般の人たちに伝えるという意味で、テレビ番組「コスモス」、映画「コンタクト」、さらには多数の書籍などを通じて、宇宙科学を人々に伝えることに大きな業績を残した。疑似科学への反論にも熱心だった。1996年、62歳で没。
第17章 アポロにあきれた
1. 217ページ3行目「フォックステレビ」
アメリカ国籍を持つ大富豪ルパード・マードック氏が率いるメディアグループのテレビ局。バラエティなどにも強いが、信憑性に欠けるネタもけっこう流すため「狐(fox)につままれた」と形容されることもある。
2. 217ページ6行目「(他の国でもその後放送された)」
日本では、この番組の内容を編集して短縮した内容を、テレビ朝日系列のバラエティ番組「これマジ!?」で放送している(2001年1〜2月、および4月)。
3. 218ページ3行目「七〇〇以上のウェブサイトがみつかる。」
日本のウェブ検索(グーグル, www.google.co.jp)を用い、2008年5月に検索した結果では、"Apollo Moon Hoax"での検索結果数で日本語のページでは2万1800件が発見できた。ウェブ全体では11万8000件となっている。なお、「アポロ疑惑」と日本語で検索すると、5万2300件の検索結果が得られる。
4. 221ページ17行目「露光時間」
カメラのフィルム(デジカメであれば感光させるための素子)に対し、光を当て続ける時間のこと。露光時間が長ければ光はたくさん当たり続けるので、フィルムや素子には情報が多くたまり、暗いものもよく撮れる。一方、明るい場所ではそのようなことをすると光が当たりすぎ、真っ白になってしまう。このため昼間であれば比較的短い露光時間に設定して写真を撮る必要がある。最近のカメラはこのあたりの処理を、周囲の明るさに応じて自動的におこなうものがほとんどだが、一眼レフなどでは露光時間を手動で調整し、撮り手が撮りたいと思う写真を撮影することができるものがほとんどである。
5. 224ページ12〜13行目「非常に長い時間をかけることが求められるからである。」
宇宙で使われるコンピュータ機器については、宇宙空間の放射線環境に耐えられるように強化されたものを用いることが通例であった。このような機器を宇宙用部品と呼ぶ(flight-proven components)。しかし、宇宙用部品は消費数が少ないため大量生産ができず、高価になってしまうだけでなく、著者が述べているように技術的に古くなってしまうという問題があった。そのため、最近では通常われわれが地上で使用している部品(民生品)のなかから、宇宙環境に強いものを選び出したり、さらには民生品をそのまま搭載する代わりに万が一の際の機構を持たせるなどして、安くかつ最新の技術を宇宙空間でも用いるという動きが進められている。
6. 229ページ9行目「月ではほとんど使えないであろう。」
この点については、著者はやや先走った感がある。実際、月を周回した日本の月探査衛星「かぐや」が搭載していたハイビジョンカメラは、センサーとしてCCDを搭載していたが、数ヶ月にわたって問題なく撮像をおこなうことができている。他の科学カメラなども同様である。
7. 238ページ7行目「そのため、月はより暗く見えるのである。」
この効果は、「衝効果」(オポジション・エフェクト、opposition effect)とも呼ばれる。とくに月において顕著である。月の砂は、入射してきた光の方向にそのまま光を反射する傾向がきわめて強い。歌にも歌われる「お盆のような月」は、このような効果のために生じるのである。
8. 241ページ10〜11行目「それは一見奇妙な現象のように思える。」
この点についてはもう少し補足説明が必要だろう。著者も繰り返し述べているように、月面には空気が存在しない。そのため、地球上のように、遠くにあるものの姿が空気によってかすんだり、ぶれたりすることはない。遠くのものもはっきりと見えることになる。このため、はっきりと見えて一見近くにあるように見えるものが、実はかなり遠くであった、というようなことが、月面では起きる。このような現象は宇宙飛行士たちも遭遇し、「距離感喪失現象」として知られている。写真でも、ふたつの物体は一見すると近くにみえるが、実は互いに遠く離れているのである。地球上の感覚で見ると近くにみえるものでも、空気がない月面ではまったく異なる様相を示すことになるという例である。
第18章 冷笑される宇宙
1. 285ページ『「恥ずべきものだ」と表現している。』
ジェリー・ポーネル氏自身のウェブサイトにも、このあたりに関連した記述がある。
第19章 はじめに、神がどう言ったとしても…
1. 274ページ3行目「地球にいる天文学者が月までの距離を非常に正確に測れるからである。」
この測定は、地球からレーザ光を発射し、その反射時間をものすごく正確に求めることでおこなわれる。反射時間は小数点7〜8桁の精度で求められるため、このくらいわずかな月と地球の距離の変化でも正確に割り出すことができる。
2. 274ページ4行目「−−約40万キロメートル−−」
正確な数値は約38万4000キロメートル。なお、月の軌道は円ではないため、距離には多少変動があり、この数値は平均距離である。
3. 275ページ9行目「このように軌道が遠くなると、月の軌道速度はゆっくりになる。」
この原理は、軌道力学やエネルギー保存といった物理学の法則が噛み合わさった複雑なもののため、理解するのは非常に難しい。著者の説明が、わかりやすく説明する限界といえる。このあたりについての日本語での解説は、たとえば、井田茂・小久保英一郎著『一億個の地球』(岩波書店)の最後の章などが参考になるだろう。
4. 279ページ6行目「より重い分子だけが残ったのである。」
地球大気中にわずかに存在する水素やヘリウムは、地球内部から火山活動などにともなって出てきたものである。これらもやがては地球大気から飛び出して、宇宙空間へと逃げていくことになるだろう。
5. 282ページ4行目「惑星に捕獲されたと考えられる。」
その例外として、海王星の衛星トリトンがある。この衛星は直径が約2700キロメートルもある大きな衛星で、しかも海王星のすぐ近く(公転半径約35万キロメートルで、地球と月の距離くらい近い)を回っているのだが、公転は逆行である。トリトンの成因としては、海王星軌道付近から外側に広がる、エッジワース・カイパーベルトと呼ばれるところから天体がやってきて、それが海王星に捕獲された、という見方もある。なお、公転が逆行であることから海王星の潮汐力によりトリトンは軌道エネルギーを失ってきており、一億年ほど経つと海王星に近づき、その重力圏に入ってばらばらに引き裂かれるか、衝突する運命をたどると予測されている。
6. 282ページ4行目「角運動量の99パーセントが大きな惑星に集中しているのである。」
角運動量とは、平たくいってしまえば、「その物体がどれだけ勢いよく回転しているか」を表す値である。正確に言うと、「運動量のベクトルと、その物体の位置のベクトルとの外積」ということになる。運動量は速度とその物体の質量を掛け合わせた値である。さて、この比較だが、実際には何の角運動量を比較しているのかがはっきりしないため、非常にあいまいな表現になってしまっている。本来比較すべきなのは、太陽の自転の角運動量と、惑星の公転の角運動量である(太陽の回りを惑星が回っているのであるから、円盤理論にしたえば、最初はみな同じ回り方をしていたはずである)。この意味でいえば、惑星の公転角運動量の合計は、太陽の自転角運動量の190倍に達する。理科年表オフィシャルサイトを参照。
7. 284ページ2行目「太陽の自転速度は大体一ヵ月で一回転というところである。」
太陽はガス体であるため、太陽のどの場所で自転速度を測るかによってその速さは変わってくる。赤道の自転速度に基づいた自転周期は25.38日。極へ向かうにつれてこの速度は遅くなり、極地域では約30日となる。
第20章 誤確認飛行物体
1. 300ページ14行目「いまや有名になったその映像」
YouTubeでも、"STS-48 UFO"というキーワードで検索すれば見つけることができる。なお、この映像は日本でも、矢追純一氏がディレクターを務めた「木曜スペシャル」で紹介されている。
2. 302ページ17行目「キャトルミューティレーション」
アメリカ、とくに中西部(コロラド州など)で多発している、牛の異常死事件。「異星人による牛の解剖説」などがあるが、近年の調査では、単に野生動物により牛が殺害されたものであるというのが有力である。
3. 303ページ3行目「ロズウェル」
アメリカ・ニューメキシコ州ロズウェル。ここに1947年7月に異星人の宇宙船が墜落し、その死体が米軍によって回収され、密かに解剖され、そしてそのUFOの研究がアメリカ政府の手によって進められた……という話がある。なお、「高度なテクノロジーを持つUFOがなぜ墜落するのか」ということについては、たとえば「UFOの推進機構が、地球上で強い電波(レーダーなど)を受けた」あるいは「雷にやられた」(当時のロズウェルは雷雨だった)という説が、UFO支持者から唱えられている。
4. 303ページ8行目「超空間(ハイパースペース)」
通常(われわれが今住んでいる世界)の物理法則と異なる物理法則が適用される空間のこと。こういう空間に入り込むことができれば、光の速度の制約から解放され、いくらでも速い速度で飛行することが可能になる。少なくとも現時点では架空のものである。
5. 303ページ8行目「ワープ飛行」
(訳注22)空間をなんらかの形で曲げることにより、本来非常に遠い二点のあいだをぐっと近づけ、そのあいだを通常の空間(三次元の世界)を脱して進むことで通常よりも速く到達する方法。少なくとも現時点では架空のものである。
第21章 火星は第七ハウスにあり、金星はそこを出て…
1. 310ページ7行目「太陽風」
太陽の表面から吹き出してくる、電気を帯びた小さな粒子(電荷を帯びたイオンなど。いわゆるプラズマ)の流れ。オーロラは、太陽風と地球磁場とが相関しあって作り出す現象である。
2. 311ページ5行目「もっとも大きな四つの小惑星」
2006年に惑星の定義が大幅に変更されたことにより、これまで最大の小惑星とされてきたセレスは、新たなカテゴリーである「準惑星」に分類された。
3. 311ページ11行目「伝統的に、小惑星は女性の名前をつけられることが多いのだ。」
そうとばかりはいえない面もある。小惑星の命名に関しては現在では事実上規則などはなく、命名者、あるいは命名に責任を持つ人たちがわりと「勝手に」決めているというところがある。

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